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JCAS Review

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地域に内在し世界を構想する

地域研究

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地域研究 JCAS Review Vol.19 No.1 2019  P. 42-44  公開日:2019年3月30日
運営委員長からのメッセージ

地域研究のさらなる展開にむけて

山本 博之

YAMAMOTO Hiroyuki

 地域研究コンソーシアム(JCAS)は、2018年度から活動の形態を大きく変えました。どのように変えたのかは後で紹介するとして、はじめに2004年の設立時から2017年度までの14年間の活動内容を簡単に振り返りたいと思います。数値で示しにくいものにも意味を見出そうとするのが地域研究の特徴の1つですが、ここではあえて数値で示すことを試みます。

 まず、JCASが主催する公開研究集会として、シンポジウムを31回、ワークショップを14回開催しました。シンポジウムは、年次集会にあわせて開催してきた公開シンポジウムのほか、「緊急支援から地域再興へ――インド洋地震・津波災害と地域社会」(2005年4月)や「中東から変わる世界」(2011年4月)のように、世界各地で災害や事件が起こったときに地域研究の立場から現状を整理して対応を検討する「地域の知」シンポジウムも行ってきました。

 加盟組織間の連携による活動としては、社会連携、情報資源共有化、地域研究方法論の3つの課題に取り組みました。社会連携では、研究対象である地域社会に暮らす人々、研究活動を支えるとともに研究成果を受け取る人々、研究を行う人々がそれぞれ抱える課題に対して地域研究がどのように寄与するのかという観点から、60件の研究会・プロジェクトを実施しました。情報資源共有化では、各地に散在する地域研究の情報資源を効率的・効果的に共同利用し、さらに地理情報システムや多言語情報処理などの情報技術を取り入れることで地域研究に新しい可能性を切り拓くことを目指して、23件の研究会・プロジェクトを実施しました。地域研究方法論では、現代世界の諸課題に対する学術研究を通じた取り組みとしての地域研究のあり方を考えるとともに、それを個々の研究者の一芸とすることなく継承可能な形で表現することを目指して、29件の研究会・プロジェクトを実施しました。

 

 公募による活動としては、JCAS発足当初から行われている次世代支援ワークショップを48件採択しました。これは次世代研究者(博士課程後期の大学院生、研究員、助教など)による研究集会の企画・開催を支援するものです。48人の採択者たちは、現在教授職に就いている2人をはじめとして、教育研究の分野でそれぞれ活躍しています。このほかに、加盟組織間交流を14件、オンデマンド・セミナーを8件、学会交流を4件、共同講義を3件採択しました。オンデマンド・セミナーはリクエストに基づいてセミナー講師などとして地域研究者を紹介する取り組みで、官公庁や民間のほかにスーパーグローバルハイスクール(SGH)指定校にも地域研究者を多く紹介しました。共同企画講義では、研究地域や所属組織の枠を超えて地域研究者が共同で講義を企画して、東京大学(2010年度、2011年度)と大阪大学(2011年度、2012年度)で出張講義を行いました。

 

 出版活動としては、特集企画を中心に据えた学術雑誌『地域研究』を16巻2号まで刊行し、17巻からオンライン・ジャーナルに移行しました。『地域研究』の特集企画については「学術雑誌としての『地域研究』――特集企画を中心に」(17巻1号)をご覧ください。このほかに、JCASが主催・共催するシンポジウムやワークショップの記録であるコラボレーション・シリーズを13号刊行しました。コラボレーション・シリーズについては「JCASが主催する研究会活動の特徴とその意義――地域研究ネットワークの活用」(17巻1号)もご覧ください。JCASの活動を紹介するニューズレターは21号刊行しました。


 JCASによる顕彰事業としては、地域研究コンソーシアム賞(JCAS賞)の4つの部門(賞)に対して、作品賞を7件、登竜賞を10件、研究企画賞を3件、社会連携賞を6件授賞しました。JCAS賞は現在も継続して実施しています(後述)。

 加盟組織に対する広報協力では、ウェブサイトを通じて1,175件の広報協力を行い、週刊のメールマガジンを448号刊行しました。

 

 このように、JCASでは、次世代育成、加盟組織連携、共同講義、世界の災害・事件への対応、社会連携など多岐にわたる活動を行ってきました。この14年間の活動を振り返るならば、JCASには組織横断型の協力連携によって地域横断型・異分野横断型の地域研究を進めていく十分な体制と実績があり、ただし財政面での裏付けが十分でなく、各加盟組織が持ちより式で活動を支えてきたとまとめられるでしょう。

 

 2018年度からJCASの活動は大きく様変わりしました。現在、JCASは、⑴個別地域の専門性を深める地域研究は各加盟組織に委ねて、JCASは「超地域」的な地域研究を際立たせること、⑵加盟組織を中心とする地域研究に携わる組織や個人の「出会い」の場を設定することの2つを目標に掲げています。

 

 その上で、JCASの日常的な活動を支える持続的な仕組みを確かなものにするため、各組織が提供できるものを提供して活動を支えるというJCASの設立理念に基づいて、幹事組織が2年ごとに持ちまわりで事務局を担当することになりました。

 

 また、JCASとして実施する活動を⑴年次集会、⑵オンライン・ジャーナル、⑶JCAS賞
の3つに絞り、それ以外のものは加盟組織の活動として実施し、JCASはファシリテート役に専念することになりました。

 

 年次集会は、JCASに加盟組織の代表者が年に一度集まる場です。年次集会にあわせて、次世代地域研究者によるポスター発表、JCAS賞授賞式・受賞記念講演、公開シンポジウムが行われ、地域研究の動向と展望に関する情報共有や意見交換を行う場にもなっています。JCAS加盟組織に所属していない人でも年次集会に参加できます。

 

 オンライン・ジャーナルは、紙媒体で刊行されていた学術雑誌『地域研究』を引き継いでオンライン版で刊行しているものです。特集、論文・研究ノート、フォトエッセイ、書評・新刊書紹介などの記事から構成され、特集や論文・研究ノートは査読を経て掲載されます。JCAS加盟組織に所属していない人でも投稿できます。

 

 JCAS賞は、JCASに関わる地域研究コミュニティの協力によって審査を行っています。選考は推薦に基づき、⑴組織ではなく個人による推薦、⑵自薦・他薦のどちらでも可、⑶JCAS加盟組織に所属していない人でも推薦可で、地域研究に関連する賞のなかでも推薦の窓口がとても広いものになっています。

 

 JCASでは、加盟組織に所属しているかどうかにかかわらず、また、狭い意味での研究者であるかどうかにかかわらず、地域研究に関心を持つすべての人が個人として活動に参加できるようになっています。いっそう多くの方々に参加していただくことでJCASがさらに発展していくことを期待しています。

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