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JCAS Review

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地域に内在し世界を構想する

地域研究

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地域研究 JCAS Review Vol.17 No.1 2017  P. 1-3  公開日:2017年3月30日
特集 地域研究コンソーシアムからの発信を振り返る──12年の軌跡

特集にあたって

帯谷 知可

​京都大学東南アジア地域研究研究所 准教授/『地域研究』編集部会長

OBIYA Chika

 2016年度から本誌『地域研究』は冊子体による刊行からオンライン・ジャーナルへ移行することとなった。2004年の設立から12年を経て、地域研究コンソーシアム(以下、JCAS)の運営体制の再検討が進められたことに伴ってのことである。本特集は、このオンライン・ジャーナルの立ち上げという機会に、設立以来のJCASの活動を刊行物による発信という観点から振り返り、その意義を確認し、そして新たな体制のもとでのJCASの将来を展望する一助とするべく、JCAS運営委員会の『地域研究』編集部会が企画したものである。

 具体的な対象としては、JCASが主催した研究集会の成果を公開してきたディスカッション・ペーパー JCAS Collaboration Series、ならびにアクチュアルな現代世界の課題についての特集・小特集と個別論文を査読付きの主要コンテンツとして展開してきた和文学術雑誌『地域研究』を取り上げることとした。これらに中心的に携わってきたJCAS運営委員があえて「当事者」目線で筆を執り、回顧と展望を試みることを基本的なコンセプトとした。本特集は上記の各々を扱った2本の論考から成る。

 第一の論考、柳澤雅之「JCASが主催する研究会活動の特徴とその意義―地域研究ネットワークの活用」は、2004年のJCASの設立とその活動の概要を提示しながら、毎年のJCAS年次集会一般公開シンポジウムやJCAS主催で開催された大規模なシンポジウム等の研究集会に着目し、それら研究集会の成果公開の場として機能してきたJCAS Collaboration Seriesを素材として分析を試みたものである。

 

 まず、JCASの多岐にわたる研究集会には、大別して、⑴喫緊の解決が必要とされる現代的課題、⑵地域研究の方法論および教育、というふたつの方向性があったことが指摘される。⑴においては、取り上げられたテーマがまさに生起し問題化している地域だけでなく、他地域からの視点も含めた議論が行われ、その課題のグローバルな位置づけと長期的な展望が常に問われてきたという特徴が見いだされた。⑵においては、研究集会の当該テーマに関する議論をリードする立場にある研究集会主催組織・グループがその研究成果を提示しつつ、あえて分野・組織横断的な議論を投げかけた点に特徴があった。

 

 さらに⑴⑵のいずれにおいても、狭義の地域研究分野の研究者に留まらず、実務家・ジャーナリスト・NGO/NPOなどと積極的に連携して企画・組織が行われ、一般公開という形で議論を行ったことが研究集会をより有意義なものにしてきたのであり、「特定地域の理解を深く掘り下げ」ながら「世界的課題に貢献する」ために、地域研究に関連する緩やかな組織連合体としてのJCASのユニークなネットワークが大きな力を発揮してきたと結論づけている。

 第二の論考、山本博之「学術雑誌としての『地域研究』―特集企画を中心に」は、2016年度までに通算第16号を数えた『地域研究』の特集企画に焦点を当て、その編集過程やそこでの議論、各特集のコンセプトを振り返ることを通じて、オンライン・ジャーナルとなった本誌が学術雑誌であり続けることの意義に迫ろうとしたものである。学術雑誌『地域研究』の歩みにも触れながら、歴代の特集企画が「より大きな世界に位置付ける」 「変わりゆく世界に対応する」 「越境する課題と当事者性」 「『グローバル』に向き合う」 「対象に即した意味を読み解く」という5つのキーワードで整理されている。

 

 その上で、「個別の事例を掘り下げた個別論文とそれらの意義を論じたリード論文」の組み合わせによる特集企画が「地域に内在し世界を構想する」という本誌の掲げる困難な課題に応える工夫でありうることが指摘され、その発展形の中に研究成果の発表の場としてだけではなく、地域研究における評価について考える場としての学術雑誌『地域研究』の可能性があるとの展望が提示されている。

 冒頭で述べたように、『地域研究』のオンライン・ジャーナル化はJCASの運営体制のスリム化と集約化という流れの中で余儀なくされた選択だったという側面は否めない。しかし、私たちはむしろこれを新たな展開へのチャンスと捉え直し、前進していくことが可能だろうと考え、試行錯誤を続けている。

 

 今回、早速オンライン・ジャーナルの強みを生かして、本文中で言及のあるJCAS Collaboration Seriesおよび『地域研究』の当該バックナンバーへのリンクの提供を試みた。本特集を読みながらリンクをたどることによって、ここであらためて読者の皆さまにこれらJCASからの発信を追体験していただくことができるのではないだろうか。そうした営みが、今後オンライン・ジャーナルとして新たな船出をした『地域研究』の誌面づくりための、ひいては地域研究における課題発見のための斬新なアイデアやヒントにつながるとすれば、誠に幸いである。

 オンライン・ジャーナルとしての『地域研究』は、JCASが主体となり、編集・刊行を担っていく。従って、これまで以上に地域研究に関わる広い層の皆さんからの特集企画の提案や論文等の投稿に支えられて成立するものとなるだろう。従来の特集、個別論文、JCAS賞審査結果と受賞作品の書評といったコンテンツに加え、研究ノート(査読あり)、「地域研究の本」のコーナー(書評・新刊紹介)、冒頭を飾るフォト・エッセイ「地域研究歳時記」を新設し、柔軟な誌面構成を試みる予定である。2018年度からは掲載が決定したコンテンツから順次アップロードし、よりスピード感のある発信体制を整える準備を進めている。引き続き、読者の皆さまからのご支持とご支援をお願いする次第である。

■著者紹介
①氏名(ふりがな)……帯谷知可(おびや・ちか)
②所属・職名……京都大学東南アジア地域研究研究所准教授
③生年と出身地……1963年、神奈川県。
④専門分野・地域……
中央アジア(特にウズベキスタン)近現代史・地域研究。
⑤学歴……東京外国語大学外国語学部ロシヤ語学科、東京大学大学院総合文化研究科(地域文化研究専攻)修士課程、同博士課程(中退)。
⑥職歴……東京大学教養学部助手(27歳、任期3年)、在ウズベキスタン共和国日本国大使館専門調査員(30歳、任期2年)、国立民族学博物館地域研究企画交流センター助手(32歳)、同助教授(36歳)、京都大学地域研究統合情報センター助教授のち准教授(42歳)を経て2017年1月より現職。

⑦現地滞在経験……ウズベキスタン(30歳、2年、日本国大使館専門調査員)、ウズベキスタン(35歳、8か月、文部科学省派遣在外研究員、調査)。
⑧研究手法……現地にしか存在しないアーカイヴ資料等の利用が最も重要であるが、自分の研究に直接関係がなくても可能な限り幅広くさまざまな人々の話を聞き、諸々のお付き合いをするように心がけている。現地では何事によらず人脈が非常に重要だからということもあるが、現地の社会的雰囲気を知ることが間接的に研究に生きてくる。最近は、社会主義時代の記憶に関するインタビュー調査も行っている。

⑨学会……日本中央アジア学会、内陸アジア史学会、ロシア史研究会、日本中東学会、アジア歴史地理情報学会。
⑩研究上の画期……1991年のソ連解体。研究対象地域に政治・経済・社会的大変動が生じ、その変動自体が研究対象となると同時に、現地へのアクセスが飛躍的に容易となり、フィールド調査や資料収集を含む本格的な地域研究が可能になった。個人的には自分の研究スタイルとして歴史研究と現代社会の課題とを往還することになるきっかけでもあった。
⑪推薦図書……小松久男(1996)『革命の中央アジア――あるジャディードの肖像』東京大学出版会。

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