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JCAS Review

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地域に内在し世界を構想する

地域研究

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地域研究 JCAS Review Vol.18 No.1 2018  P. 1-5  公開日:2018年3月30日
2017年度JCAS年次集会シンポジウムの記録

フューチャー・アースと

地域研究者の協力の可能性

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世界各地の自然と人間の歴史、文化的な関係について
長年にわたって研究を蓄積してきた地域研究は
環境研究分野とは相性がよく
人文・社会科学系研究者と環境研究者による共同研究は
多様な成果を上げてきた。
既存の環境問題研究についての反省の下に「超学際科学」を掲げて誕生した
「フューチャー・アース(Future Earth)」においても
人文・社会科学系の研究者が果たしうる役割は大きいと考えられている。
地球環境問題を考えるための国際的枠組みにおいて
地域研究者はどのような協力・協働ができ、独自の力を発揮できるのか。
地球環境研究分野で日本を牽引する二人の研究者の話から
新たな研究の可能性を探った。

公開シンポジウムを振り返って
地域研究 JCAS Review Vol.18 No.1 2018  P. 2-3  公開日:2018年3月30日

2017年度JCAS年次集会
公開シンポジウムを振り返って

塩谷 昌史

東北大学東北アジア研究センター 助教/地域研究コンソーシアム運営委員長

SHIOTANI Masachika

※役職・所属はシンポジウム開催当時のもの

 2017年度のJCAS年次集会は、10月28日に東北大学で開催された。年次集会のシンポジウムは、東北大学東北アジア研究センターの公開講演会とも位置付けられた。毎年、JCASの年次集会は、開催校の特徴を活かした形のシンポジウムが行われる。東北アジア研究センターは、東北アジア地域の研究を文系と理系の研究者が協力して進めるのが特徴である。そのためシンポジウムの内容は、人文社会系に止まるよりも学際的なものが望ましかった。今回シンポジウムの企画は、当センターの石井敦准教授と私(塩谷)が担当した。石井氏自身が「フューチャー・アース」のプロジェクトに関わっていることもあり、年次集会で「フューチャー・アース」を取り上げられないかとの提案があった。その際「フューチャー・アース」は、地球環境を守る世界的な取り組みであるとの説明を受けた。私も地球環境を取り上げるなら学際的なテーマとなるので、その方向で準備を進めたいと賛同した。 
 私は2012年以降、JCAS運営委員会の研究企画部会で、JCASの年次集会の企画に関わってきた。2012年の北海道大学スラブ研究センターの年次集会の企画を考える際、シンポジウム案のブレインストーミングを運営委員会で行った。その時、報告者の候補の一人として、運営委員の甲山治氏(京都大学)から安成哲三氏(当時は名古屋大学)の名前が挙がった。最終的に北海道大学の年次集会に安成氏を招聘するには到らなかったが、御名前は記憶に残った。石井氏と年次集会の企画を相談した際、安成氏を招聘してはどうかと提案すると、安成氏自身がフューチャー・アースの日本代表であり、講演を依頼するのに最適な研究者との回答を得た。安成氏は現在、総合地球環境学研究所の所長をされており、フューチャー・アースの日本支部の事実上の代表である。長年、気象研究に携わって来られたが、研究者としての出発点では、京都大学東南アジア研究センターに在籍された。自然科学の研究に精通されておられるだけでなく、地域研究にもお詳しい。後日、安成氏から講演の快諾が得られた。
 もう一人、フューチャー・アースに対し、地域研究の立場から提言できる研究者を講演者として呼びたいということになった。JCASの年次集会なので、JCASの運営委員にアドヴァイスを御願いしてみることになった。東南アジア地域をフィールドとする地域研究者で、環境問題に取り組んでいる方が望ましいという条件を付け、運営委員会のメーリングリストで依頼を行った。すると柳澤雅之氏(京都大学)から井上真氏(早稲田大学)が適任との回答を得て、講演を依頼することになった。講演を即座にお引き受けいただいた。井上氏は現在、早稲田大学に所属されているが、2016年までは東京大学大学院農学生命科学研究科・農学国際専攻に所属されていた。これはJCASの加盟組織の一つであり、以前に井上氏自身が農学国際専攻のJCAS窓口を務められていたため、JCASをよく御存じだった。
 私と石井氏とシンポジウムの趣旨文を相談し、ポスター用に次の文章を執筆した。「2013年以降、日本学術会議で『フューチャー・アース』の取り組みが行われている。これは日本だけでなく世界的にも、地球環境の危機を総合的に理解し、問題の発見から解決にいたる研究の全過程を、社会各層の関係者と協働でデザインする超学際的な研究の試みである。この試みは、行政、研究者、産業界、市民団体等、『地球の未来』に関する様々なステークホルダーが協力することを理想とする。これはJCASの社会連携にも近い形である。この『フューチャー・アース』の取り組みと地域研究者の協力の可能性について考えてみたい」。シンポジウム当日には60~70名の方が参加された。一般市民の方々の参加は少なく大学関係者が中心になったが、参加者は熱心に講演に聞き入り、講演後には質疑応答が活発に交わされた。
 東北大学の学内では、年次集会のテーマに対して反響が大きく、花輪理事(当時)も出席されるほど注目度が高かった。安成氏と井上氏の講演は相互補完の関係となり、非常に興味深い内容であった。その内容については、実際の講演記録に目を通していただきたい。安成氏はこれまで「フューチャー・アース」が形成されてきた経緯と今後の方向性を示された。井上氏は御自身の経験も踏まえて、「フューチャー・アース」の鍵となるのは、「超学際」の方法論の確立だと述べられた。「超学際」の方法論は現在模索中であり、評価のあり方も今後確立する必要があると安成氏は述べられた。本シンポジウムのテーマである、「フューチャー・アース」と地域研究者の関係に関しては、実際の環境問題の解決は具体的な地域においてになる。そのため地域研究者が「フューチャー・アース」に協力できる可能性は大きい。その際、地域研究者と理工系研究者の学際協力と、行政・企業・市民等の様々な利害関係者との調整作業が必要になる。このシンポジウムの記録により「フューチャー・アース」について理解を深めていただければ幸いである。

シンポジウム趣旨説明

■評者紹介
①氏名(ふりがな)……塩谷昌史(しおたに・まさちか)
②所属・職名……東北大学東北アジア研究センター・助教
③生年と出身地……1968年、京都市
④専門分野・地域……ロシア研究
⑤学歴……滋賀大学経済学部、大阪市立大学大学院経済学研究科前期博士課程、同後期博士課程、同博士(経済学)
⑥職歴……東北大学東北アジア研究センター助手(30歳、8年)、東北大学東北アジア研究センター助教(38歳、8年)
⑦現地滞在経験……ロシア(23歳、半年、語学留学)、同(30歳、4年、東北大学シベリア連絡事務所の駐在員として)。
⑧研究手法……フィールド経験は、研究の3割程度の重要性を占める。私は歴史研究と現状分析の両方に携わるが、いずれも経済統計に依拠しつつも、研究テーマに関わる関係者へのインタビューと現地訪問を必ず行っている。
⑨所属学会……社会経済史学会、比較経済体制学会、the Association for Slavic, East European, and Eurasian Studies
⑩研究上の画期……1991年12月のソ連崩壊。モスクワに語学留学していた際に、現地でソ連が崩壊する過程を実体験した。その後、ロシア研究を志すようになった。
⑪推薦図書……梅棹忠夫(2002)『文明の生態史観ほか』(中公クラシックス)、中央公論新社。梅棹氏の歴史モデルは、提唱から半世紀以上も経つが、今なお示唆を与えてくれる。

地域研究 JCAS Review Vol.18 No.1 2018  P. 4-5  公開日:2018年3月30日
2017年度JCAS年次集会シンポジウム
フューチャー・アースと地域研究者の協力の可能性

趣旨説明

石井 敦 

東北大学東北アジア研究センター 准教授

ISHII Atsushi

 まず、タイトルの「フューチャー・アース」は「超学際科学」と呼ばれる領域の国際的枠組みです。従来の環境問題の研究は、学術研究の業績を上げることを最優先に行われており、政策に直接寄与することがあまりありませんでした。その反省のもとに「超学際科学」は、科学者だけで研究するから良くない、ということで、どういう研究をすべきかを、ステークホルダーの方々と一緒に考え、問題解決に貢献することを提唱しています。
 私も「超学際科学」に携わり、フューチャー・アースの勉強会も主宰しています。しかし、文系の研究者の方々があまり関わっていません。フューチャー・アースは、グローバルな研究と地域とをどのように結びつけていくのかが課題となっており、その方法論などがわからない状態が続いています。運営委員長の塩谷昌史氏とこの講演会のお話をしている時に、JCASと共催するので、この問題を本シンポジウムで考えようと企画しました。
 JCASがフューチャー・アースとどのように関わるべきか、関われるならどのように協力するか御議論いただきたいと思います。本日、この問題を考えるために最適のゲストスピーカーをお招きしました。安成哲三先生と井上真先生です。
 安成先生は、フューチャー・アース本体の科学委員会の委員、日本学術会議のフューチャー・アース推進委員会の委員長、総合地球環境学研究所長という要職に就かれています。フューチャー・アースの国際的展開だけでなく、日本の展開も牽引されています。
 今日はフューチャー・アースの具体的な御紹介と、フューチャー・アースにアジアとして取り組むのがどれほど重要なのか、我々アジアに住む研究者はフューチャー・アースの推進を担わなければならない責任があることについて、お話しいただけると思います。
 お二人目は井上先生です。御自身は超学際科学研究の業績も多数おありで、今日は御自身のケースを御紹介いただき、フューチャー・アースに問いかけをしていただく御発表になっています。
 研究者の皆様にはフューチャー・アースに御協力いただきたいことと、一般の方々にはステークホルダーとして「超学際科学」に御参加いただき、一緒に双方向のコミュニケーションを取り研究に参加していただきたいと思います。

■評者紹介
①氏名(ふりがな)……石井 敦(いしい・あつし)
②所属・職名……東北大学東北アジア研究センター・准教授
③生年と出身地……1974年、神奈川県
④専門分野・地域……科学技術社会学、国際関係論、日本
⑤学歴……筑波大学大学院社会工学研究科(中途退学)
⑥職歴……2001年4月~2004年9月まで国立環境研究所NIESアシスタントフェロー、2004年10月より現職。
⑦研究手法……フィールドは主に国際交渉会議なので、経験を積めば積むほど、関連ネットワークが広がっていきます。研究手法としては、フィールドの経験は参与観察をとおして研究で活かされます。
⑧所属学会……International Studies Association、日本国際政治学会、環境経済・政策学会
⑨研究上の画期……1992年のブラジル・リオデジャネイロで開催された地球サミットによって、環境問題は国際政治の欠かすべからざる構成要素の一つになりました。
⑩推薦図書……Takacs, David (1996) The Idea of Biodiversity: Philosophies of Paradise. Baltimore: Johns Hopkins University Press.

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