JCAS Review
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地域研究
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地域研究 JCAS Review Vol.18 No.1 2018 P. 6-21 公開日:2018年3月30日

2017年度JCAS年次集会シンポジウムの記録 講演1
Future Earth(フューチャー・アー ス)
─その科学的意義と日本の役割
安成 哲三
YASUNARI Tetsuzo
総合地球環境学研究所 所長/日本学術会議フューチャー・アース推進委員会 委員長/
Future Earth国際科学委員会 委員
今日はフューチャー・アースの話をします。このテーマは地域研究との関わり合いが重要です。
先週もエイミー・ルアーズ(Amy Luers)氏にお会いしました。彼女は米国のオバマ政権時に科学アドバイザーをされた方で、最近フューチャー・アースの新しい国際事務局長に就任されました。彼女によると、地球環境変化(Global Environmental Change)研究のコミュニティがフューチャー・アースの基盤になっており、そのためフューチャー・アースの当初のストラテジーで、地域とどう関わるかについては明確ではありません。
ルアーズ氏は総合地球環境学研究所にも来られ、研究所のプロジェクトや、日本におけるフューチャー・アースの取り組みを知って感銘を受けた、と言われました。具体的な地域にコミットしつつ「学際」から「超学際」を試みるのは、他の国でもやっていないと評価されました。
今日はフューチャー・アースの趣旨と現状、アジアにおける重要性、そして今後のストラテジーを説明したいと思います。次の井上氏のお話と繋がる形で議論できれば良いと思います。
■Change from 1750 to 2000
まず、図1(Change from 1750 to 2000)を見てください。地球のシステム、あるいは、人間を含めた地球環境がすごく変わりました。産業革命が始まった頃から2000年まで人間活動の様々な指標はどう変わったのか。それに伴い地球環境はどう変化したか。どの図を見ても明確にわかるのは全てが右肩上がりに上昇したことです。20世紀の後半(1950年~60年)は第二次大戦が終わり、日本では高度経済成長期が始まり出した頃です。その頃から世界的に人口もGDPも増え、様々な経済活動や人間活動の指標が上昇し始めた。それに伴い温室効果ガスも右肩上がりに上がった。オゾンホールの減少や、極端な現象が急激に増え気温も上がっている。海では漁獲高も急激に増えている。海洋生態系も大きな問題になり、エビの生産量、陸から農業・工業を含めた窒素の流入が急激に増え、一部の海洋等では富栄養化の問題が起こっている。熱帯雨林が減少し耕作地が増えた。生物の多様性や種が次第に減少している。20世紀後半に急激に地球のシステムが、人間の住んでいる環境も含めて変わってきた。
このことを合わせると、今の共通のプロットの傾向は1950年頃以降急激に変わってきたと言えます。これからどうなるのか。特に20世紀後半以降、地球の自然で人間活動が影響を及ぼさない地域はほとんどない。大気、海洋、生物、生態系を含め、自然環境が大きく変わると、人類の活動に逆にフィードバックされて様々な問題が起きると予想されています。

■人類世(The Anthropocene)
近年、人類が地球を相当変えてしまい、今は人類世あるいは人新世(The Anthropocene)と呼ばれる時代になっています(図2)。
今後、人類はどうすべきか。何をすべきか。フューチャー・アースは、それに取り組む活動です。科学研究者のコミュニティが色々な事実や現状を理解した上で、どうするかを考えるために、文理融合に加えて「超学際」や「社会と組んで」と言ってきました。今まで研究者だけが研究の何が大事かを考えてきましたが、社会の様々な関係者(ステークホルダー)も参加して考えなければならなくなった。その国際的なプラットフォームが「フューチャー・アース」です。

■過去2000年間の温室効果ガスの大気濃度変化
図3は過去2000年間の温室効果ガスの変化を示しています。産業革命の開始以降、CO2等の温室効果ガスは急に上昇し、特に20世紀の後半に急激に上昇しています。これにより地球温暖化の進行や海洋温も上がっているのは確かです。しかし、人間活動によって気候を変えられるかどうかには議論もあります。急激に温室効果ガスが上昇し、そのため温暖化していると考えられていますが、過去の地球の歴史を見た時、自然変動でもこの程度の変化があったという意見もあります。これは海洋学や地質学の研究者がよく言います。本当にそうでしょうか。

■1870年以降の人為起源の二酸化炭素の累積放出量
10何年前からの懸案であった地球の気候学に関する教科書を、最近出版しようと原稿を準備しており、最近、研究をレビューしています。図4はIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告による「1870年以降の人為起源の二酸化炭素の累積放出量」で、今から2100年まで横軸に炭素の量、縦軸に気温上昇量をプロットした図です。2100年まで人間活動により色々なシナリオが考えられます。炭素の量を抑制すれば800GtC程度に抑えられるかもしれない。しかし抑えなければ2000GtCを超える。これはIPCCが想定しています。

■新生代の全球平均の気温変化
過去6500万年前は「新生代」が始まった頃です(図5)。6500万年の間の地球の気温の変動では全般的に寒冷化でした。恐竜がいた白亜紀の頃に隕石が衝突します。この第四期になり新生代の初期、地球は非常に暖かかった。北極でさえ熱帯・亜熱帯気候に入っていました。一番、気温の高い時期として PETM があります。これは暁新世と始新世の境目で、気温が極大化した時期です。この時期に新生代の中で一番気温が高かった。海水温も暖かかった。この原因は何かというと、当時、火山活動が活発で大気に CO2 が大量に放出されたためとされています。当時の推定排出量は20万年間で3000から 1万2000GtC です。一番ピークの年間での CO2 の排出速度は 0.6GtC で、非常に暖かかった。
現在の気温は、この200年間で既に 800GtC、今 500GtC 程度です。2100年まで最も抑えて800GtC、抑えられなければ 2100GtC という予想です。この量は平均速度にすると6から10GtC/yrで、この5500万年前の一番暖かかった時の CO2 放出の10倍程度になる。だから、地球の気候に何にも起こらないと考える方がおかしい。

■地球システムの限界
温暖化だけではなく色々な要素に限界が現れています(図6)。たとえばこの図にあるように、生物多様性減少、窒素循環の悪化、エネルギー消費量の急増等です。これらの変化は、人類が化石燃料を使い出したことが一番の元です。これらは相互に関連して同時に起きて、影響が生じます。これらは、気候学者や生物学者が個々の方法で調査を行い、状況が明らかになりましたが、地球の環境は相互に関連して変わっており、様々なプロセスは全部関連していますので、この結びつきも明らかにする必要がある。
フューチャー・アースでは、これまで個別に行ってきた地球環境変化の研究の統合を目指します。超学際(Trans-disciplinary)の前に、学際(Inter-disciplinary)研究をしなければなりません。1980年頃から色々な地球環境変化研究の国際的枠組みで、世界気候研究計画(WCRP)、地球圏生物圏国際協同研究計画(IGBP)などが、国際科学会議 (International Council for Science=ICSU)という組織の下に設立されました。そして、それぞれの計画は良い成果を出しています。地球の過去のことが明らかになったのは、国際的枠組みの成果によるものです。まず、地球のシステム自体への複雑な仕組みは、人間活動の影響を含めて学際的(Inter-disciplinary)に研究する必要があります。

■Earth System Science Partnership(ESSP)
図7~9にあるように、上記の様々な国際的枠組みは1980年代から形成されましたが、前述の個々の研究計画を統合した学際研究のニーズから、2001年に地球システム科学パートナーシップ(Earth System Science Partnership=ESSP)という枠組みが創られました。しかし研究者だけだと、なかなか統合できません。皆自分の学問分野(disciplinary)がやりたくて、自分の関係の論文が出れば良いところがあり、統合が進まなかった。その後、地球の状況が色々わかってきたが、我々が住む地球環境の何も良くなっていない、という問題も指摘され、ICSUや国際社会科学評議会(International Social Science Council=ISSC)等の国際的な科学者会議の枠組みが批判されました。
特に国連機関や各国の資金助成機関(funding agency)から批判が上がった。問題の解決に向けた研究に取り組んでもらいたいと要請された。そこで国連機関や社会のステークホルダーが、どういう研究が大事なのか一緒に考える枠組みを作らなければならなくなりました。そこで2012年にフューチャー・アースができました。フューチャー・アースのガバナンスは研究者だけではありませんが、地球環境変化研究を学際的に進めるのもフューチャー・アースの重要な活動です。地球圏生物圏国際協同研究計画(International Geosphere-Biosphere Programme=IGBP)や生物多様性科学国際協同研究計画(DIVERSITAS)の下に様々な研究プロジェクトがあり、今も23程度残っています。これをまず連携させる必要がある。世界気候研究計画(WCRP)にも4つあります。WCRPは正式にフューチャー・アースに加盟していませんが、密接に連携しています。
フューチャー・アースでは、地球環境の統合的な研究を進めることが使命の1つになります。何が問題なのかという領域で、人文社会科学とも連携して進める必要があります。フューチャー・アースの国際的なガバナンスの中核は、ICSUとISSCです。先週、台湾でこの二つの会議が行われ合併してInternational Science Council(ISC、和名:国際学術会議)に名称を変えます。フューチャー・アースがこの合併の契機になったのは間違いありません。


Historical context of Future Earth 地球環境変化研究プログラムからFuture Earthへ

■フューチャー・アースの国際的組織連携
フューチャー・アースは、図10に示された国連の様々な機関、UNESCOだとか国連大学等、持続可能な開発に関係するネットワーク、個々の資金、研究資金を出すグループ(BELMONT FORUM)を作っています。日本からは文部科学省が代表で入っています。全体として問題の解決に向けた地球環境研究を進めていますが、自然科学者と人文社会科学者の連携すら大変であることはまちがいありません。
